「零売」について・実際にあった患者さんのお話

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みなさんこんにちは。りつです。

今回は「零売」についてのお話になります。

零売はあまり一般的なものではないため「なにそれ?」と思う方もいらっしゃるかと思います。

でも大丈夫です。

この記事を読むと、

  • 零売とは何か?
  • 零売のメリット・デメリットについて
  • 実際にあった問題

について知ることができます。

 

目次

零売について

零売とは?

処方箋医薬品以外の医療用医薬品(以下、「本薬」と記載します)」を販売することを指します。

ややこしいのですが薬には、処方箋医薬品(処方箋がないと出せない薬)とそうでないものがあります。

「本薬」は処方箋医薬品以外かつ一般用医薬品(以下「市販薬」と記載)以外の薬です。

簡単にまとめると以下のように分けられます。

 

処方箋医薬品本薬市販薬
処方箋必要基本は必要零売時は不要不要
病院への受診必要基本は必要零売時は不要不要
保険効く基本は効く零売時は効かない効かない

 

「本薬」は、処方箋によって調剤する場合は処方箋医薬品と同じように扱い、零売する場合は市販薬と近い扱いになるイメージです。

 

厚生労働省では、零売において以下のように示しています。

  • 処方箋に基づく交付が原則
  • まず市販薬の販売による対応を考慮する
  • やむを得ず本薬の販売をする場合、必要な受診勧奨等を行う
  • 販売数量は適正使用に必要と認められる数量に限る
  • 必要に応じて、他の医薬品(市販薬等)の使用を勧める
  • 必要に応じて、医師・歯科医師の診断を受けることを勧める(受診勧奨)
  • 販売した薬剤科の指名、薬局の名称、電話番号、その他連絡先を伝える
  • 品名、数量、販売の日時等を書面に記載し、2年間保存すること
  • 購入したものの連絡先を書面に記載し、これを保存するよう努めること

許可された薬に関しては一般の人に売っても良いけど、原則を理解してちゃんとルールを守ってね!

ということですね。

現在では「零売薬局」と掲げている薬局もあり、少しずつ知名度が上がってきていると思います。

※当薬局では零売は行っておりません。

 

メリット

大きく以下の3つのメリットがあります。

  • 時間がかからない
  • 受診料がかからない
  • いつでも買える

 

「やむを得ない理由があり、すぐに病院に受診できない。でも薬は切らせない」

というような方にはありがたいかもしれません。

病院には受診するだけで数時間かかってしまうのが普通です。

仕事盛りの多くの人にとって、平日の受診は厳しく、土曜日も診察時間が午前中だけとなっている病院も多いです。

受診する手間がかからず、薬局で薬を買うだけで済むならそれに越したことはないと考える人は少なからずいると思います。

それに加え、零売では病院を介さないため、受診料はかかりません

また処方箋は、医師が処方箋上に有効期限を指定した場合を除いて、処方箋交付日を含めて4日以内が期限となっています。

この期限が切れると、処方箋の効力はなくなり、後日薬局等に行って薬を貰おうとしても不可能になります。

零売においては、処方箋の期限から解放される点もメリットであると思います。

ここだけ見ると、患者さん側にとってかなりいいことづくめのように感じられると思います。

 

デメリット

反対に以下のようなデメリットもあります。

  • 全額自費
  • 値段が高い可能性がある
  • 安全性の問題がある
  • 対面販売に限られる

零売は保険が効かず、完全に自費です。

しかも、売る側が自由に値段をつけられるため、かなり高額となる可能性もあります

さすがに買う人に応じて値段を変える形ではなく、「薬価×〇倍」というような一律の値段設定をしていると思いますが・・・。

また医師の処方に基づくものではないので、安全面の懸念は残ります

(糖尿病の薬など、血液検査等によって処方の妥当性を判断するような薬では零売がそもそもできませんが)

またネットでの販売はできません

絶対に対面販売しなければならないため、薬局等に来て必要な説明等を受けなければなりません。

逆に言うと、対面で販売しなかったりネットで売っているような場合、詐欺か違法行為を疑うべきと思います。

 

個人的に感じたこと・現実的なことについて

私は「零売」については存じていましたが、大々的に宣伝している薬局があることを知った時はかなり衝撃を受けました。

示されたルールを外れない限り違法行為ではないので、一定のニーズはあると思います。

これを経営戦略と考えた薬局の方の発想の柔軟性に関しては素直に感心しました。

 

しかし、零売のデメリットでも解説しましたが、リスクとは隣り合わせであることについては留意すべきです。

市販薬については薬剤師(2・3類は登録販売者も)の領分ですし、厚労省から示された通り市販薬による対応の考慮が前提です。

その上で市販薬で対応できない場合、かつ、やむを得ない場合に本薬を販売することができるような選択肢があるのは良いと思います。

しかし、定期薬のように毎回零売を行うということは、厚労省の趣旨からは外れていると思います。

また、仕事が忙しくて受診できないというのは「やむを得ない理由」とはならないとされているようです。

そのため「零売をできる場面というのはかなり限られるのでは?」と個人的に思っています。

零売そのものは便利ですが、患者さん側も薬剤師側もリスク・ベネフィットを考えて活用すべきであると考えられます。

 

零売で薬を手に入れていた患者さんのお話

常連の患者さんで、Aさんという方のお話です。

Aさんは服薬指導の際、たくさんお話して下さるとってもチャーミングなご婦人です。

ある時、

患者さん

実は今まで先生にも薬剤師さんにも話したことはなかったんだけど・・・

と零売で薬を数年にわたって手に入れていたことを打ち明けて下さいました。

お話によると、2つの漢方薬を購入していたようですが、その値段に驚きました。

一方は500円/包、もう一方は200円/包くらいで買っていて、月5~6万円程度かかっていたそうです。

 

事の経緯はこんな感じです。

①もともと○○病院で2つの漢方薬が処方されていたが、ある時に医師の判断で中止になった。

②中止後になんとなく体調が良くない気がしたので、処方再開をお願いしたが断られた。

③どうしても欲しいので、△△病院の医師に相談してそちらで処方してもらうことに。

④ある日、△△病院の医師が亡くなりまた該当薬がもらえなくなった。

⑤色々手を尽くして、県外の薬局(?)から該当薬を取り寄せていた。

※⑤に関しては対面販売ではなかったと思われるので、もしかすると違法行為?怪しすぎます・・・。

 

Aさんはこのことを○○病院・当薬局にも気が引けてずっと話せなかったようです。

しかし今回、

  • 併用薬と飲み合わせの問題はないか?
  • 高額なため大変
  • 医師にも話していないため続けていても大丈夫か?

このような不安をAさんから話してもらいました。

 

漢方薬は持参していなかったのですが、

患者さん

コタローとツムラの漢方で、1つは60番だったのは覚えている。
もう1つは17番か117番だったと思う。

と話していました。

漢方にも製薬メーカーが何社かありますが、漢方につけられた番号・名前は連動しているので同じ種類の方剤になります。

※該当薬が製造されていない場合もありますので、コタロー117は欠番となります。

 

番号コタローツムラ
60コタロー桂枝加芍薬ツムラ桂枝加芍薬湯
17コタロー五苓散料ツムラ五苓散
117該当なしツムラ茵蔯五苓散

 

これらについては全て併用薬と確認して、飲み合わせについては問題ないことをお伝えしました。

ただし医師に話していない状態であることは心配です。

また、○○病院医師が必要と判断して再開になれば保険も効くため、安全面・経済面でも良いと思われることを伝えました。

このことに納得してもらい、次回医師へ診察時に伝えるようお願いしました。

トレーシングレポートを提出した方が良いと思ったのですが、「確実にこの漢方薬だ!」と断定できなかったので、今回はAさんを信じて見送ることにしました(実物を持ってきていたら、この時点で情報提供していました)。

 

そして2ヶ月経過してAさんが、再度○○病院を受診し当薬局へいらっしゃいました。

主治医にも2つの漢方を持参して相談してみた所、

斎藤先生

今のAさんはこの漢方を飲まなくても大丈夫だと思うよ。
いったん1ヶ月休んでみて。
それでやっぱり調子悪いなって時はまた相談して。

と言われたようです。

来局時に持参した漢方を私にも見せていただきました。

正体は、①コタロー60桂枝加芍薬湯、②ツムラ117茵蔯五苓散であることがわかりました。

単純計算ではありますが、このような値段の内訳でした。

 

コタロー60桂枝加芍薬湯ツムラ117茵蔯五苓散
Aさんが買った値段約200円約500円
薬価16.25円64.25円
価格の倍率約12.3倍約7.8倍
※1包あたりの値段で出しています(2剤とも1包2.5gの内容量)

 

率直に「高すぎじゃない?」と思いました。

いつもの定期薬は2ヶ月分で出されていましたので、1ヶ月後にAさんのフォローアップをすることにしました。

その結果、中止によって調子が悪くなることもなく元気に過ごせているということでした。

ほっとしましたし、Aさんが今後高額な費用を払う必要もなくなったので良かったと思っています。

このことは主治医へもトレーシングレポートにより報告しました。

 

今回の一件で、患者さんの中には、医師・薬剤師に自分の思っていることを中々言い出せずにいる方もいることが改めて分かりました。

やはり患者さんとの信頼関係を築くことは大切だと感じました。

Aさんからは、お孫さんのこと、趣味のお裁縫のことなどのお話もよく聞いていましたので、少しずつ話しやすい人だと思ってもらえたのかなと思います。

薬局業務はとにかく時間に追われるため、患者さん1人当たりにかけられる時間はあまり多くありません。

それでもできる最大限、患者さんの声に耳を傾けていけるように努力したいと思います。

 

おわりに

いかがでしたか?

何でもそうですが、今ある制度を悪用せず、時には上手に活用できる世の中になるのが理想ですよね。

何度も言うようですが、「零売」はルールをちゃんと守れば違法ではありません。

もしも薬局側が実施する場合は、ルール・原則を守り、その後の患者さんのフォローにも努める必要があることを念頭に置いていただければ幸いです。

患者さん側も、ちゃんとした知識を持っていただくことで、零売を騙った詐欺や違法行為から身を守っていただければと思います。

 

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

また次回の記事もお読みいただけると嬉しいです。

それでは。

 

参考文献

1)厚生労働省 処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について

2)一般社団法人日本零売薬局協会 厚生労働省からのご指摘について

3)一般社団法人日本零売薬局協会 薬局ホームページにおける「医療用医薬品名表示」に関する改善のお願い

4)小太郎漢方製薬株式会社 医療用医薬品【製品番号順】

5)ツムラ医療関係者向けサイト ツムラ医療用漢方製剤一覧

6)各種添付文書

7)おくすり110番 薬価サーチ

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