皆さんこんにちは。りつです。
今年からコロナが5類となり、世の中もある程度の落ち着きが出てきた頃かと思います。
しかし医療現場での薬不足はまだまだ解消には程遠いのが現状です。
今回は薬不足に陥った経緯についてのお話になります。
薬不足に至った原因
薬が不足するに至ったのは、複数の問題が積み重なったために起こりました。
特に後述する小林化工、日医工の2大製薬企業の事件による影響が大きいです。
①小林化工の睡眠薬混入事件
まず2020年12月に発覚した事件が発端となりました。
小林化工という大手製薬会社が製造販売を行っている抗真菌薬(いわゆる水虫の薬)イトラコナゾール錠50mgに、睡眠薬リルマザホン塩酸塩水和物が混入していたことが判明しました。
これによって245人に健康被害が生じ、因果関係は不明とされているものの2人が亡くなる痛ましい事件となりました。
その後の立ち入り検査では、複数の医薬品で長年の間、以下のようなことが行われていたことが明らかになりました。
- 認められていない手順での製造
- 品質試験をせずに製造
- 虚偽報告やデータ改ざんなどの隠ぺい工作
小林化工はこれにより業務停止命令を受け、その後も製造再開の見通しが立たず廃業という結果になりました。
②日医工のGMP違反
薬の製造には製造管理・品質管理の基準が定められたGMP省令というものがあります。
GMPの三原則
GMPを理解するうえで重要な考え方として「GMPの三原則」があります。日本のGMPをはじめ、諸外国のGMPもこの要件にまとめられていると考えられています。
日本医薬品原薬工業会HPより
- 1. 人為的な誤りを最小限にすること
- 2. 医薬品の汚染及び品質低下を防止すること
- 3. 高い品質を保証するシステムを設計すること
薬はこのGMP省令を守って製造しなければなりません。
2020年2月に日医工の1つの工場の調査が行われ、GMP違反の疑いが判明しました。
そして2020年4月以降、日医工製品の自主回収が立て続けに起こりました。
また薬には出荷試験と呼ばれるものがあり、不適合とされると出荷ができません。
後の調査によると日医工では出荷試験に不適合になった製品に対し、以下のような不正を10年近く行っていました。
- 別ロットで再試験
- 再粉砕・再加工して試験
患者さんへの健康被害は発生していないのが唯一の救いですが、恐ろしいことだと思います。
日医工は廃業までには至りませんでしたが、計574品目の販売を中止することになりました。
日医工はジェネリック医薬品製造においてかなりのシェアがあるため、医薬品業界に激震が走りました。
③その他の製薬企業でもGMP違反が発覚
前述の大手2社の事件があったため、他企業にも自主点検・調査が行われました。
その結果、多くの製薬企業でGMP違反が発覚し、15社に行政処分が下されました。
以下が行政処分を受けた企業とその日付・内容です。
医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会 報告書 参考資料より
また、行政処分が下されなかったものの、承認書と違う作り方をしていた製品、規格不適合となった製品の自主回収・出荷停止が多数発生したために医薬品の供給不安が発生しました。
薬局への影響・個人的感想
以前は数あるメーカーから、薬の大きさ・識別性・価格・AGなど・・・様々な判断基準から薬局側が採用する薬を選ぶのが当たり前でした。
それが薬の供給量が急激に減ったことにより、辛うじて手に入るメーカーの薬を採用することになりました。
ただそれも一時だけで、卸してもらった薬も翌月には卸してもらえなくなることもザラです。
当薬局でも、何度も何度も何度も何度も…メーカー変更を余儀なくされました。
もはや薬局に薬があって当たり前という時代ではありません。
卸さんに確認しても、
出荷調整品なので無理です
実績がない薬局には卸せません
こういう風に断られることが毎日当たり前のようにありましたし、今でも普通にあります。
やむを得ず近隣の薬局に小分けのお願いをしても、どこの薬局も苦しい状況なため無理なことがほとんどです。
薬の在庫がないことに医師から怒られ、患者さんから怒られ・・・。
この不毛な在庫管理にかなりの労力を要さなければならないのと、怒られることへのストレスはかなりの負担となります。
対人業務が重視される時代なのに、対物業務の負担が大きすぎるのはかなり問題かと思います。
そしてこのような地獄の日々はあと数年は続くことが予想されます。
卸への影響(R5/9/22追記)
今年9月20日に開催された中医協薬価専門部会(第209回)の資料が公開されました。
その一部が以下のスライドになります。
中央社会保険医療協議会・薬価専門部会意見陳述 資料より
これを見ると薬局だけでなく卸さんも辛い立場であることがわかります。
衝撃的なのがこの一文。
「メーカーさんの代わりにひどく怒られることも多々あります」
考えたくはないですが、薬局側(病院も?)が卸さんに対して、苦言あるいはもっとひどければ暴言を吐いている可能性がありますね。
薬局は薬の供給不足を患者さん・医師に怒られることがある立場ですが、だからと言って卸さんに対して怒る理由にはならないと思います。
卸さん側も疲弊・苛立ちがあるでしょうから、たまに冷たい対応を取られることはありますが・・・。
当薬局では卸さんに対して怒ったり、嫌味を言ったりなどは私の知る限りではないです。
(そんなことにエネルギーを消費するのは無意味ですしね)
でも苦しい立場にいるのは我々と同じですし、普段から卸さんへの感謝・ねぎらいの心を忘れないようにしたいと思います。
終わりに
いかがでしたか?
今回はかなり暗い話題でしたので不快に感じた方もいらっしゃるかもしれません。
そうであれば申し訳ありません。
なるべく明るい話題を提供できるよう努力したいと思います。
ここまで長々とお読みいただきありがとうございました。
次回の記事もお読みいただけると大変うれしいです。
それでは。
参考文献
1)PharmaStyle No.36 September2023